「グランド・フィナーレ」 / 阿部和重


2001年のクリスマスに家族との繋がりを失った「わたし」が、のんびりと待ったり泣いたり焦ったりする自分を眺めている話。あくまでのんびり。腹立たしいまでに。


阿部さんの本は初めてで、内容に関しても一切予備知識無しだったのですが、そのせいか、ものすごく楽しめました。


二体のぬいぐるみから始まり、「わたし」の一人称で進むこのお話、読むにしたがって「わたし」の言葉から客観的な事情がすこしずつ明らかになっていくのだけど、それらが読み手を意識した順番でありながら、そこには読み物特有の説明臭さが無い。この人物は差し迫った必要が無ければそれらの現実を決して正視しないのだろうな、とういう風に思ってしまう。
その上、痛々しい現実を読み手に開示する時は、淡々と客観しているし、その罪深さについては他人の口から以外ほぼ語られない。ひたすら細やかに、鮮やかに描かれるのは「わたし」の眼を通した情景や、愛するものへの想いばかり。


性癖ゆえに罪を犯していながら、「その気持ちはピュアなものだ」とヒロイックな立場を演じることで正当化しつつ、過剰に演じ滑稽さを醸す事でまた客観。
更にそんな自分を責めつつ「己を貶める事で悦に浸る下司なのだ、今のわたしは」とやる。それすら客観した風な物言いで。


自分に嘘を吐かない、言い訳をしない逃避のために、ひたすらメタ視しては問題を無自覚に後回しにする主人公の巧妙さが、嫌悪する以前に見事だと思った。この説得力で自分と付き合っていけば、いろいろ無視しながら実際生きていけそうで。


そんなメタ表現が続く中、物語のラストで「わたし」は「難儀な場所へと辿り着」くのだけど、そこが、ひととして、立っているべき場所であることに気付いていない、というのがまた痛々しい。相棒にまだ頼ってるし。


一人称が綺麗に嵌まってるお話だと思いました。気持ち悪くて。
とても面白かったので、収録されている残りの3篇はなんとかじっくり読んでいきたいと思うけど多分無理。