隣にいても一人

去年の暮れに見た芝居。at熊本市民劇場。
日本が誇る劇作家・平田オリザさんの作品。
ウチの劇団員・奥村泰自さんが出たんだけど、コレがすげえ面白かった。てか色々と考えさせられた。
いや違うな。「考えてしまった」だ。


朝起きたら、兄貴の嫁さんの妹さんがいて、なんだか「夫婦」になっていた。
それまでは、たまに顔を合わせるだけだった二人は、その朝を境に、混乱しつつも紛うことなき「夫婦」だった。
うん、このひとは俺の妻だ。
うん、このひとは私の夫だ。


ん?
なんでだ。


困ったので、とりあえず兄ちゃんと姉ちゃんを呼ぶ。
そういえば兄夫婦(姉夫婦)は離婚する直前だったので、一人ずつ来てもらうことにする。


で、とりあえず自分たちは「夫婦」なので、婚姻届を提出する。するものの、なんだかぎこちない。でも夫婦。なんでだ。
それを見て兄は自分たちへの当てつけと思い「ふざけるな!」と怒り、姉は自分を棚に上げて「夫婦ならもっとしっかりしろ」と嗜める。


予備動作一切無しで夫婦になった二人の戸惑いながらも微妙に幸せな空気と、子供も育った中擦れきった夫婦の苛立ちと混乱が、すこぶる可笑しい。
しかもそれが、とても日常的な台詞のトーンとリズムで進められていく。まるで隠しカメラでお茶の間のやりとりを眺めているような気分になる。
結局「夫婦」になってしまった理由は分からずじまい。
なのにすっげえ面白い。ゲラゲラ笑った。


―で、ひとしきり笑った後、劇中で放たれた台詞が何故かまだ残ってる。


「夫婦って何?」





あれ? …なんだろう。
てか他人じゃん。
なんでお前らは一緒に住むか。普通に分からん。
と、仕事柄タブーな気持ちになり、いろいろ考えてしまった。


今回「不条理劇」と呼ばれる芝居を始めて見たのだけど、名前から予想していたシュールで理解不能なものとはまったく違っていた。
いくらでもスイスイ入ってくる。しかも笑える。
なのに、たった一つの「不条理」が、えもいわれぬ後味を残す。
とても面白いお芝居。また見たいと久々に思いました。