「あまちゃん」と「ふたりっ子」、朝ドラヒット作の共通点

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数年ぶりにエントリ連投するほど、現在「あまちゃん」にハマっています。朝ドラを本腰入れて見たのは、17年振りです。
そして「似てるなぁ」と思いました。17年前にハマった朝ドラふたりっ子に。


例えば、「潮騒のメモリー」。
ドラマとキョンキョンの相乗効果で売れている「朝ドラ挿入歌」。この曲でキョンキョン紅白歌合戦に出場するかも!?と芸能誌などで話題になっていますが、
ふたりっ子の劇中で架空の歌手が唄っていた「夫婦みち」も、75万枚の売上を叩き出し、唄っていたオーロラ輝子(河合美智子)がその年の紅白に出場しています。


もしかして他の朝ドラ劇中歌も紅白出てるのかも、と調べてみましたが、少なくとも「架空の歌手」としての紅白出場は一切ありませんでした。
つまり、もしキョンキョンが春子さんとして紅白出場するならば、「ふたりっ子」以来の出来事になるのです。


これはもう本格的に比べてみたほうがいいんじゃないか。
比べてみました。



1996年度後期に連続テレビ小説として放送された「ふたりっ子」は、当時低迷の極みにあった「朝ドラ」の劇的な復活を果たした記念すべきドラマでした。
1966年7月、大阪の下町「天下茶屋」にある小さな商店街、その片隅にある小さな豆腐屋「野田豆腐店」の夫婦に生まれた二卵性双生児「香子(キョウコ)」と「麗子(レイコ)」がドラマの主人公です。

貧しいながらも、明るくゲラゲラ笑いながら暮らすオッサン・オバちゃんたちに囲まれて、双子の少女はすくすく育ちます。
香子はわんぱくで天真爛漫、男勝りのタメ口少女に。
麗子は小学生の頃から優れた頭脳と美貌を備え、男に媚を使うお嬢様を演じながら。


まずこの舞台設定と主人公に共通点を発見。
東北と関西、土地も環境も全く違うのですが、天下茶屋商店街で床屋を営む宮川大助・花子夫婦、その息子たる馬鹿ヤンキーのマサ兄、ビリヤード場でたこ焼き売りながら「玉突き占い」という胡散臭い稼業に手を染めるムサシ(河島英五!)、将棋倶楽部に通う夢路いとしらの、極めて馬鹿馬鹿しいバカ話とトラブルに、北三陸の海女クラブや観光協会の面々を思い出すのです。


特に伊原剛志さん演じるマサ兄の馬鹿さが物凄い。
当時33才にしてリーゼントのアホ高校生を演じ、主人公のお嬢様、麗子にベタぼれ。小学生の麗子をちやほやする可愛がり様は、今となっては若干ヤバイくらいで、いつも麗子のために余計なことをして怒られたり、ウザがられる様子は、北三陸駅長の大吉ぁんを彷彿とさせます。


しかし、マサ兄はじめ皆にちやほやされていた麗子の方は、実家も天下茶屋も大嫌い。「こんな所早く出て行きたい」と心の底で思っていたのです。
そしてもう一方の双子、香子は天下茶屋が大好き。
この対比は、「あまちゃん」のアキとユイの関係をなぞっているかのようです。


そんな双子の母親「チアキ」は、実は芦屋の豪邸に住む富豪の娘。
下町の豆腐屋「野田コウイチ」のもとに駆け落ちしたっきり20年以上帰っていないという過去を持っています。



チアキは優秀な麗子に甘く、わんぱくな香子に厳しくあたり、ある日勢いで「あんたなんか生まれなきゃよかった」と言ってしまいます。
ショックで香子は家を逃げ出し、そこで自分の道を見つけます。


香子が憧れたのは、年老いた賭け将棋師、銀ジイ(中村嘉葎雄)。
偶々同乗した特急で香住の海へ行き、そこで将棋への道を仄かに目指し始めることになります。
将棋好きの中年男性が集う「通天閣将棋センター」に子どもの頃から通い、オッサンらに可愛がられながら将棋の腕を磨き、次第に香子は、「将棋センターのアイドル」と呼ばれるようになります。


下町と富豪、田舎と都会。
バブルが弾けて数年、上流下流という格差が明確になり始めた時期というのもあり、環境の差異はありますが、実家の暮らしを大切に思う少女と、そこから逃げ出したい少女の対比が物語に意味を付加する構造は、「あまちゃん」と一緒です。


しかし、その展開は大きく違います。
学園のマドンナとして高校生活を満喫し、京都大学への受験に合格した麗子は、遂に両親へ「この家嫌い!」と啖呵を切り、母の実家、芦屋の豪邸へ逃げていきます。
嫌いな関西弁を封印し、夢のお嬢様ライフスタート。しかしこれはプロローグに過ぎません。


大財閥の御曹司でアメフト部のエース、海東壮平に目をつけた麗子は、さり気なくすれ違ったり目線を交わしたり、巧みに心を引きつけて上手いこと告白させ、素性を偽りながら結婚を目論みます。更に、実家がバレそうになると海東を別荘に呼んでベッドイン。そして翌朝、ダブルベッドに横たわる全裸の二人(もちろん布団かぶってますが)。
ここまであからさまな婚前交渉描写は朝ドラ史上初で、当時かなり物議を醸したそうです。
あと、海東宗平を演じたのは現在参議院議員山本太郎さん。魔性の女に弄ばれる純真な青年の名演が、イデオロギー抜きで楽しめます。


一方、そんなゲスい麗子でも大好きな香子は、決して順風満帆とはいえない道を歩みます。
県下でも馬鹿しか集まらない高校にギリギリ入れるも、学力不足で中退。アホのマサ兄ですら卒業できたのに。
その後、父の跡を継いで豆腐屋になることを約束し、趣味で将棋をさし始めます。
18歳、女子高生崩れの香子でしたが、未だ将棋センターのアイドルとしてその腕を振るってオッサンどもをブイブイいわせていました。
しかしある日将棋センターに、感じの悪いインテリ学生「森山史郎」が現れます。

「ちょろいわこんなヤツ」と挑んだ香子は、史郎にありえないくらいの惨敗を喫します。ボロ負け。蔑んだ眼で将棋センターを去る史郎。超悔しい。強くなりたい。
そして香子は「プロ棋士になりたい!」と思うようになります。


「アイドル」から「プロ棋士」へ。
ここも、「海女」から「アイドル」へ進んだアキとは真逆の展開です。


父の反対を押し切って、香子はプロ将棋への唯一の道「奨励会」に入門。落語や歌舞伎ばりに厳しい縦社会で、森山史郎と兄弟子として再会します。
そして、ひたすら夢に邁進している史郎と共に過ごすうち、香子は恋愛感情を持ち始めます。


現在ではほぼ大御所たる、内野聖陽出世作がこの森山史郎でした。
冷徹な眼の奥にある、愛情を欲する弱さが、女性視聴者をとりこにし、番組人気の一因になっていたのではないかと思います。
この男性描写は、後に「セカンド・ヴァージン」をヒットさせた脚本家大石静さんの十八番でもあります。


そして、女性描写のいやらしさも大石さんの得意技。
特に前半における麗子のどす黒さは白眉、発言が徹底的にうそ臭く描かれます。
「もっと痛くして」「あなたがいないと息ができない」など、現行のドラマではまず聞かない科白を連発。そしてそのメッキはちょっとしたアクシデントでアッサリ剥がれてしまいます。
「身分を偽っていた麗子のことが信じられない、言うこと全部が嘘臭いんじゃ!」と海東にフラれ、号泣し途方に暮れる麗子。そしてあろうことか、香子が好きな史郎にアプローチし始めるのです。物凄い嫉妬心。そして遂に、史郎と同棲するまでに至ります(ただし肉体関係なし)。


ここも、アキが好きな種市先輩を横取りするユイそのままの構図。
ということはつまり、その後の展開も一緒。最終的に史郎は香子を選び、めでたく棋士夫婦として結婚します。


ここまでがドラマの半分。

アキが東京でアイドルへの道に悪戦苦闘するように、その後香子もプロ棋士への道に四苦八苦。
一方麗子は、やることなす事失敗して泣き続ける人生を歩み、その果てに大切なものを見つけます。
そして、娘二人に人生を否定された父親は家から失踪し、演歌歌手「オーロラ輝子」の付き人になってしまいます。



朝ドラにあるまじきハードな展開ながら、視聴者が離れなかったのは、ひとえに天下茶屋の馬鹿騒ぎや登場人物のコミカルなやりとりが面白かったからだと思います。
更には、掛布や羽生名人などの有名人が時たま実名で登場したり、銀ジイの粋なキャラクターがかっこ良かったりという魅力もありました。
こんな構造も「あまちゃん」に酷似しています。


そして、脚本の大石静さんはじめ番組スタッフが、「ふたりっ子」を作るモチベーションとなったのは、1年前に起こった災害「阪神大震災」だったそうです。
お茶の間に笑いを届けたい。日本が元気になるドラマを作りたい。そんな思いが「ふたりっ子」を傑作にしたのだという分析もあったようです。
本編での震災描写は、極力抑えたものになっていましたが、目的は達成されたと言ってもいいでしょう。この年、大石さんはこのドラマで「向田邦子賞」を獲得しています。


ふたりっ子については、こちらの感想サイトが大変示唆に富んでいて必読。
【ふたりっ子感想戦】


双子の正反対の生き方を描くことで、「女性の生き方」というテーマを世に示した朝ドラ「ふたりっ子」。
しかしその面白さは、17年の時を越えて「あまちゃん」に受け継がれている、と感じた昨今でございました。まあ他の朝ドラをちゃんと知らないので、他の朝ドラにもたくさん共通点はあるかもしれませんが。


あと対象的な点として、「あまちゃん」の主演が関西人なのに対して、「ふたりっ子」の主演が東京出身というのももしかしたら全国的ヒットの条件かもしれません。
他にも、当時のヒット曲を流す感覚とか(これは2008年の「だんだん」でもあったようです)、美味しそうな「豆腐」と北三陸の「ウニ」の対比なども魅力的ですが、
最後に、僕が強く共通点を見出した点を書いておきます。


あまちゃん」の序盤、アキは海に飛び込みます。自分の進む道を決めるきっかけとして。まあその後も何かと飛び込みますが、「ふたりっ子」にも、主人公が海に飛び込むシーンがあります。
兵庫県香住の港で、香子は海に飛び込み、それが物語を大きく動かすのです。

もう一つ、「あまちゃん」のOPで、北三陸の海底の映像が出てきますが、「ふたりっ子」のOPも、水の底に飛び込み、やがて空へと昇ってゆく映像なのです。
水の底に潜った後、自らの生きる道を目指し、上へと昇ってゆくイメージ。
その共通点が、2つの朝ドラをつなぐ、一番大きな要素に感じられるのです。


因みに、NHKオンデマンドで「ふたりっ子」の総集編(1時間x4話)を鑑賞出来ますが、あろうことか件の飛び込みシーンはばっさりカットされてて身悶えした。しかもマサ兄などの笑えるシーンもほぼカット。
これはフルで観ないと伝わらないと思い、完全版DVDをチェックするも値段たっけえ!
しかし財布と相談する価値があるドラマだと思います。ていうか求む再放送。

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