衝撃の再始動が波紋を呼ぶも、「どうでもいい」(本人たちが)

シャンブル【初回生産限定盤】

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16年ぶり、まさかの再始動。あの「伝説のバンド」が帰ってくるというニュース。
ところが出てきたアルバムはなんとも気楽なものだった。


初っ端から、優しさ全開の「ひまわり」。
続いて奥田民生の趣味をそのまま取り出したかのような「スカイハイ」。
「ザギンデビュー」「水の戯れ」など、聴き心地の良い楽曲が続き、ハイテンポの「BLACKTIGER」までもが、あってしかるべき「刺」を刈り取られている。
これまでの歌詞から溢れていた毒が無い。人を食ったかのような展開も無い。
「もう少し力んでもいいんじゃないのか」
と思うくらい自然体の楽曲たち。自分たちがユニコーンである自覚すら感じられないつくり。


しかし、その心地よさと言ったら!


聴けば聴くほど染み込んでくるメロディ。ライブでのテイクに期待してしまうノリ。
「なんでこの曲調でこの歌詞なんだ」という、気付きにくくてややこしいナンセンス。
病み付きになり聴き続けるうちに、少なくともはっきりしてくる真実がある。


間違いなく、連中は楽しんでやがる。


再始動という奇跡への期待を、こともなげに突っぱねるテンションと完成度。
当時の売りであった「毒と哀愁を含んだ歌詞」すら無いのには、さすがにびびった。
だが、実はこれこそが「音楽を楽しむ」「楽曲のみに精を出す」「他は知らん」というユニコーンの基本姿勢で、その肝がむき出しになった今作は、ユニコーンに付属していた「伝説」という称号にまるで価値を感じていない、メンバーのふてぶてしさ(ここも相変わらず)の証左なのでしょう。
今考えると、確かに彼らならこう出るに違いないと思える。


もうひとつ、最後の曲「HELLO」で泣いた。
まさかユニコーンの曲で泣くとは思わなかった。


「伝説のバンド」などではない。このバンドは「変」だ。
相変わらず予想も期待も裏切る。むしろ歳をとって更に食えなくなってるので注意されたし。
ユニコーンで音楽による無為と感動の扉を開かされた身として、大変嬉しいアルバムでした。

Perfumeとアメリカの猛者(よい馬鹿)がコラボ


Crazy Frog Brothers
謎の兄弟による「AXEL F」のエアボ
YouTubeで愛されている、若気の至り動画。二人の少年による、浮かれきったダンスに合わせて、様々な楽曲があてられた。
ニコ動においては親しみを込めて「幼少時のビル・ゲイツ」と呼ばれている。
ニコ動リンク:http://www.nicovideo.jp/watch/sm219137




GAME / Perfume
Perfumeのオリジナルアルバム「GAME」からタイトル曲。
アイドルであることを半ば放棄したようなゴリゴリサウンドに、異例にもエフェクト皆無な3人の生声が生える楽曲。
ライブでの盛り上がり方は、控えめに言って「ロック」。
ニコ動リンク:http://www.nicovideo.jp/watch/nm4936414




ゲイツでGAME
これらの二つを凄い精度で組み合わせた奇蹟の動画。
映像と音楽を合わせるだけじゃ物足らず、マッシュアップまでしてしまっている。
ものすごい傑作。
ニコ動リンク:http://www.nicovideo.jp/watch/sm5072250

本や映画のレビューで、★の数使ってランク分けしてるのが、なんだかイラッとする。
なんでだろう、と思ってたんだけど、さっきわかった。


俺は本・音楽・映画において、もし面白くない・楽しめない作品があったとしたら、それは9:1で受け手に問題があると思ってる。
特に何も発信しない・ブログも殆ど書かない俺だけど、消費者として卑屈になっているわけでなくて、何らかの意思なり動機でもって書かれた本なので、読めばそれなりになんかあるっしょ、と思ってるだけで、実際どの本にもなんかあった。それが作者の意図してるものかどうかは別だけど。
なので、もし面白くない・楽しめない作品があったとしたら、それはちょっとした敗北です。
「面白さを読み取ることができなんだぁ」「もっといいコンディションの時に読むべきでした」と臍を噛む。


つまり、★の数っていうのは本の評価ではなく、「その本を楽しめたか」という自己評価とか、読み手と作品の相性とかだとずっと思ってた。全部★5つにしてるひとはさぞ幸せだろうと思う。
だけど、大概★1つや2つのレビューには作品の悪いところばかりが書いてあって、相性の悪さを全部相手のせいにしててけしからん! と思ってイラッとしてたんだな、つまり俺は。


でもだからといって、★5つのレビューに「お前の魅力を把握できる俺の慧眼!!」とか「相性ぴったりなのはボクのお陰さ!」みたいな恩着せがましいレビューは無いということにも気付いた。
恋はたくさんした方がいいと思った。

隣にいても一人

去年の暮れに見た芝居。at熊本市民劇場。
日本が誇る劇作家・平田オリザさんの作品。
ウチの劇団員・奥村泰自さんが出たんだけど、コレがすげえ面白かった。てか色々と考えさせられた。
いや違うな。「考えてしまった」だ。


朝起きたら、兄貴の嫁さんの妹さんがいて、なんだか「夫婦」になっていた。
それまでは、たまに顔を合わせるだけだった二人は、その朝を境に、混乱しつつも紛うことなき「夫婦」だった。
うん、このひとは俺の妻だ。
うん、このひとは私の夫だ。


ん?
なんでだ。


困ったので、とりあえず兄ちゃんと姉ちゃんを呼ぶ。
そういえば兄夫婦(姉夫婦)は離婚する直前だったので、一人ずつ来てもらうことにする。


で、とりあえず自分たちは「夫婦」なので、婚姻届を提出する。するものの、なんだかぎこちない。でも夫婦。なんでだ。
それを見て兄は自分たちへの当てつけと思い「ふざけるな!」と怒り、姉は自分を棚に上げて「夫婦ならもっとしっかりしろ」と嗜める。


予備動作一切無しで夫婦になった二人の戸惑いながらも微妙に幸せな空気と、子供も育った中擦れきった夫婦の苛立ちと混乱が、すこぶる可笑しい。
しかもそれが、とても日常的な台詞のトーンとリズムで進められていく。まるで隠しカメラでお茶の間のやりとりを眺めているような気分になる。
結局「夫婦」になってしまった理由は分からずじまい。
なのにすっげえ面白い。ゲラゲラ笑った。


―で、ひとしきり笑った後、劇中で放たれた台詞が何故かまだ残ってる。


「夫婦って何?」





あれ? …なんだろう。
てか他人じゃん。
なんでお前らは一緒に住むか。普通に分からん。
と、仕事柄タブーな気持ちになり、いろいろ考えてしまった。


今回「不条理劇」と呼ばれる芝居を始めて見たのだけど、名前から予想していたシュールで理解不能なものとはまったく違っていた。
いくらでもスイスイ入ってくる。しかも笑える。
なのに、たった一つの「不条理」が、えもいわれぬ後味を残す。
とても面白いお芝居。また見たいと久々に思いました。

ソニーと林檎

先日ウォークマンを買いました。
ファイル形式の都合でiTunesに乗り換えられない悲劇。いいんです、Sonicstageはよくやってくれてる。
このヲークマン、ノイズキャンセラーがすげえ。
騒音が見事に激減。地下鉄で「ボレロ」の冒頭が明瞭に聞こえる。さすがソニー。一生ついていきます。Appleも早くiPodに搭載して下さい。買うんで。寝返りの早さには自信があります。


じっくり聞いたことなかった椎名林檎さんの「加爾基 精液 栗ノ花」が今更ヤバイ。
頭から通して聞いてたら、ちょっと眩暈がした。
「無罪」「勝訴」みたいなものをイメージしてたら、おもくそ裏切られた。かといって東京事変のようなバンドサウンドでもない。
ロック、ジャズ、ロカビリー、オーケストラ、クラブ、トラッド混成のジャンル無視状態。それもジャンルの違う曲が集められてるんじゃなくて、曲中で既に沢山混じってメチャクチャになってる。なのに総じて美しい。雑なのか計算ずくなのか分からない。
歌詞の暗さも他作を軽々凌ぐ出来で、なんつうか「艶っぽくて綺麗な極彩色の臓物」みたいなアルバム。この時期の椎名さんは間違いなくどうかしてたと思う。

加爾基 精液 栗ノ花 (CCCD)

加爾基 精液 栗ノ花 (CCCD)

もったいない

「そうやって意地を張り続けているかぎり
不安と後悔が夜通しお前を苛むんだ
なぜ助けを求めない? 人間は孤独に弱い生物なんだぞ
ホラ あいつ タナベなんてどうだ?
奴の口グセの『愛』とやらを具体的に実演してもらうといい」


「ははははっ なに言ってんだかコイツは(中略)
全部オレのもんだ
孤独も 苦痛も 不安も 後悔も
もったいなくてタナベなんかにやれるかってんだよ」


プラネテス 2巻 108-106ページより

久々にマンガの科白にシビれた。
たしかにもったいねえ。ステイメンいるけど。

Farewell,Mr.Premier

ドラマ「総理と呼ばないで」。


最低最悪の総理大臣の話。
わがまま、ウソ吐き、適当、言う事を聞かない、言い逃れが上手い、当然内閣でも嫌われ者、妻にも疎ましがられ、それでも傍若無人に振舞う男。
そんな総理が周りを徹底的に下らない感じで振り回し、振り回されるドラマ。


田村正和さんはもともと素敵な俳優なんだけど、これにに出ている田村さんが一番一等素敵。
すぐウソをつく。
明らかに自分の所為なのに「どういうことだよ!」とかすぐ怒鳴る。
可愛い女の子相手に、露骨にニヤニヤする。
興味ない話には飽くまでプイッと余所見。
心に響く檄を飛ばし、観ててグッとくるような涙を見せる。でも全部演技。
で、一番肝心なときはサラリと普通のことを言う。不思議なことにコレが一番グッとくる。等々…
なんということか、終始はまったお芝居を見せてくださる。実際どうかとかいうのは置いといて。


他の登場人物も粒ぞろい。
ていうか18名のメインキャストのうち、12名が30代以上の中年男性。3/2がおっさん。大河かと。
今見るとトレンディー枠にあるまじき渋いキャストです。


まずは首席秘書官の西村雅彦さん。
古畑任三郎」とは正反対、ダメ総理を理解し、その手腕で支える、敏腕秘書官。このドラマの裏主役。
鉄面皮の極北。心の篭っていない科白とか本当に上手い。
総理を「悪い人じゃないんだ」と言いつつも常にイライラ。間違いなく胃は穴だらけだろう。
しかし、実はこのドラマは彼と総理のラヴストーリーだという説もある程の、ラストの結ばれっぷりが凄い。この瞬間、三角関係の要だったはずの総理婦人がすっ飛び、寧ろハラハラした。


次に重要なポストにいるのが、首席補佐官の小林勝也さん。補佐官ていうか、ヤクザ。
強面のチンピラ提灯持ち。バカ総理に飽くなき忠義を尽くし、後半彼の行動が内閣を総辞職へ傾かせる。
総理の適当な言い逃れに、「そうだそうだ」とか根拠の無い肯定してて「そんなんじゃ総理をつけあがらせるだけだろコラ!」と思っていたが、これがまた良いお芝居かましてて、何故か感情移入すらしてしまう。彼の泣きシーンは必見。


使用人頭の小松政夫さん。冷静沈着な執事。
第一話で「総理の質問には答えるな」とメイドに教え、実際「私には分かりかねます」と答えていたのが、終盤で見事なまでに活きて来る。
「それを踏まえて申し上げるならば…貴方が成すべき事は、今、貴方がお考えになってらっしゃることで御座います、総理」
ここだけ抜くと特に重要度の高そうにない科白なのに、ドラマで聞くと途端に意味を持つ不思議。
こんな名科白が、殆どの登場人物に振られているところは、まさに三谷ドラマ。まあキャストがキャストだしなぁ。


副総理の藤村"おひょい"俊二さん。基本ソファで寝てる。ずっと。
人員不足のため、外務大臣農林水産大臣を兼務。このひとはいつ働いてるんだ(正解:夜)。
内閣の暗躍者代表。後半で重要箇所を確実に抑えるところを見ると、このひとはペース配分が巧みなんだということに気付く。


篠井英介さんのカマっぷりは相変わらず(最終話「あら、おかま」という完全に無意味な科白は果たしてアドリブだったのだろうか)。
他にも仲本工事さんや田山涼成さん、青柳文太郎さん、郷田ほづみさん(このひと本業は声優さん)等、味のあるおっさんで構成された渋いキャスティング。
SPの二瓶正也さんに到っては呼び名が「キャップ」。もう良いお歳でしょうにキャップ。
あと画伯の小林隆さんは最後まで無念でしたでしょう。


そして若人陣。


官房長官筒井道隆さん。家庭教師からの大抜擢を受けた、正論坊や。当然仕事できない。
物語の進行と同時に存在感がビシバシ薄くなってくのが気になるけど、この自然なフェイドアウト具合は見事。
初めに主演級と思わせといて「あくまで1/18ですよ」とやる手腕はほぼ役者さんの力でしょう。
しかしそんな1/18が良い具合に物語に絡む10話ラストはなかなか微笑ましい。主張しない主演。


ファーストレディの鈴木保奈美さん。わがままで適当でウソ吐き。総理とマジ一緒。
話聞いてないし、すぐ人に頼るし、家出しておきながら直後使用人に荷物を持ってこさせる。
人の話を初っ端から遮るところとか、見てるこっちがイラッとする。
ところが嫌いになれない。あんまりキュートで(キュートて!)。可愛くて優雅。なんとまあ美しいじゃじゃ馬。
旦那との諦めの悪い掛け合いなど、極度に特殊な夫婦の風景は新鮮でした。
下手したら本当に嫌われるだけの役を、魅力的なファーストレディにしてて凄いと思う。でもイラッとする。


総理令嬢の佐藤藍子さん。天真爛漫令嬢がアングラ劇団に所属。明らかに道を間違えてる。
主張の強い顔立ちが笑い、怒り、泣くさまはそれだけでコメディエンヌ。
彼女は毎回必ず総理にビンタされては、号泣しながら部屋を飛び出す。学習の無さがもはや魅力。


メイドの鶴田真由さん。ドン臭さ全開の田舎者。
特に、皿割ったときの「ぇあああぁぁぁ」という叫びがとってもドン臭い。
でも可愛い。なんなんだ。記者会見での酷いメイクすら可愛らしい。俺が男だからなのか。
このドラマの女性キャストはいちいち評価しづらい。何にせよ彼女は、今でこそ特に好まれるキャラクタなのかもしれない。


更に、女性陣には邸事務所秘書係主任の戸田恵子さん、賄いさんの松金よね子さんという素晴らしい女優さんらが。
絶望的で一方的な恋愛感情を秘めつつ、首席補佐官と共に手腕を振るう秘書係主任。
ドラマを影で支える暗躍組の一人。細かい表情が情景説明に一役買っている。
お芝居がお上手なだけに、馴染んで埋もれてしまっているのが個人的に残念です。ご立派!
そしてゴシップ好きの賄いおばさんは、誰よりも偉い。
総理にタメ語で威圧、命令できるのはこの国で彼女だけだと思われる。しかしその権力がドラマの展開に大きな影響を及ぼさないのが清清しい。さすがガールスカウト


王様のレストラン」「古畑任三郎」で手腕を振るった三谷さんの脚本は言わずもがな。
登場人物を肩書きでしかネーミングしてないとか、毎回必ず泣きながら部屋を飛び出す娘とか、「ドレスカデン国」とか、下らなくもしっかり笑える仕掛けや伏線が上手に効いているし、それぞれの人物にいちいち見所が振られているので、恋愛やアクションがメインでなくても眼が離せない。
音楽は服部隆之。「王様のレストラン」よりも地味だが重厚なオケ。最近かなり気にっております。
カットで顔アップにせず意味無くズームするとことか、「とんでもございません」みたいな間違った敬語とか個人的に気に入らないところはある。でもそれにまして、いいドラマでした。


そしてドラマのラスト、こんな最低最悪な内閣が支持率回復できるはずなく、当初の予想通り総辞職する。
原因は、証人喚問で総理がついた「政界史上最大・最後の大ウソ」。


フジテレビドラマ「総理と呼ばないで」。
洋題は「Farewell,Mr.Premier」。「さらば、総理大臣」。
このタイトルが、既に物語のラストを語っていた。「さよなら、小津先生」がコレと一緒だなそういえば。


総理と呼ばないで(1) [VHS]

総理と呼ばないで(1) [VHS]


追記:
そういえばこのエントリ、実際の政治に絡めて書く予定だったのに忘れてた。
このドラマ、外側から見たらまずありえない内閣だけど、実際の内閣もこんな内情があると言う風に見れば許…やっぱりダメだな。
あくまで平和な国の平和なコメディ。でも面白いので観るべし!!