Farewell,Mr.Premier

ドラマ「総理と呼ばないで」。


最低最悪の総理大臣の話。
わがまま、ウソ吐き、適当、言う事を聞かない、言い逃れが上手い、当然内閣でも嫌われ者、妻にも疎ましがられ、それでも傍若無人に振舞う男。
そんな総理が周りを徹底的に下らない感じで振り回し、振り回されるドラマ。


田村正和さんはもともと素敵な俳優なんだけど、これにに出ている田村さんが一番一等素敵。
すぐウソをつく。
明らかに自分の所為なのに「どういうことだよ!」とかすぐ怒鳴る。
可愛い女の子相手に、露骨にニヤニヤする。
興味ない話には飽くまでプイッと余所見。
心に響く檄を飛ばし、観ててグッとくるような涙を見せる。でも全部演技。
で、一番肝心なときはサラリと普通のことを言う。不思議なことにコレが一番グッとくる。等々…
なんということか、終始はまったお芝居を見せてくださる。実際どうかとかいうのは置いといて。


他の登場人物も粒ぞろい。
ていうか18名のメインキャストのうち、12名が30代以上の中年男性。3/2がおっさん。大河かと。
今見るとトレンディー枠にあるまじき渋いキャストです。


まずは首席秘書官の西村雅彦さん。
古畑任三郎」とは正反対、ダメ総理を理解し、その手腕で支える、敏腕秘書官。このドラマの裏主役。
鉄面皮の極北。心の篭っていない科白とか本当に上手い。
総理を「悪い人じゃないんだ」と言いつつも常にイライラ。間違いなく胃は穴だらけだろう。
しかし、実はこのドラマは彼と総理のラヴストーリーだという説もある程の、ラストの結ばれっぷりが凄い。この瞬間、三角関係の要だったはずの総理婦人がすっ飛び、寧ろハラハラした。


次に重要なポストにいるのが、首席補佐官の小林勝也さん。補佐官ていうか、ヤクザ。
強面のチンピラ提灯持ち。バカ総理に飽くなき忠義を尽くし、後半彼の行動が内閣を総辞職へ傾かせる。
総理の適当な言い逃れに、「そうだそうだ」とか根拠の無い肯定してて「そんなんじゃ総理をつけあがらせるだけだろコラ!」と思っていたが、これがまた良いお芝居かましてて、何故か感情移入すらしてしまう。彼の泣きシーンは必見。


使用人頭の小松政夫さん。冷静沈着な執事。
第一話で「総理の質問には答えるな」とメイドに教え、実際「私には分かりかねます」と答えていたのが、終盤で見事なまでに活きて来る。
「それを踏まえて申し上げるならば…貴方が成すべき事は、今、貴方がお考えになってらっしゃることで御座います、総理」
ここだけ抜くと特に重要度の高そうにない科白なのに、ドラマで聞くと途端に意味を持つ不思議。
こんな名科白が、殆どの登場人物に振られているところは、まさに三谷ドラマ。まあキャストがキャストだしなぁ。


副総理の藤村"おひょい"俊二さん。基本ソファで寝てる。ずっと。
人員不足のため、外務大臣農林水産大臣を兼務。このひとはいつ働いてるんだ(正解:夜)。
内閣の暗躍者代表。後半で重要箇所を確実に抑えるところを見ると、このひとはペース配分が巧みなんだということに気付く。


篠井英介さんのカマっぷりは相変わらず(最終話「あら、おかま」という完全に無意味な科白は果たしてアドリブだったのだろうか)。
他にも仲本工事さんや田山涼成さん、青柳文太郎さん、郷田ほづみさん(このひと本業は声優さん)等、味のあるおっさんで構成された渋いキャスティング。
SPの二瓶正也さんに到っては呼び名が「キャップ」。もう良いお歳でしょうにキャップ。
あと画伯の小林隆さんは最後まで無念でしたでしょう。


そして若人陣。


官房長官筒井道隆さん。家庭教師からの大抜擢を受けた、正論坊や。当然仕事できない。
物語の進行と同時に存在感がビシバシ薄くなってくのが気になるけど、この自然なフェイドアウト具合は見事。
初めに主演級と思わせといて「あくまで1/18ですよ」とやる手腕はほぼ役者さんの力でしょう。
しかしそんな1/18が良い具合に物語に絡む10話ラストはなかなか微笑ましい。主張しない主演。


ファーストレディの鈴木保奈美さん。わがままで適当でウソ吐き。総理とマジ一緒。
話聞いてないし、すぐ人に頼るし、家出しておきながら直後使用人に荷物を持ってこさせる。
人の話を初っ端から遮るところとか、見てるこっちがイラッとする。
ところが嫌いになれない。あんまりキュートで(キュートて!)。可愛くて優雅。なんとまあ美しいじゃじゃ馬。
旦那との諦めの悪い掛け合いなど、極度に特殊な夫婦の風景は新鮮でした。
下手したら本当に嫌われるだけの役を、魅力的なファーストレディにしてて凄いと思う。でもイラッとする。


総理令嬢の佐藤藍子さん。天真爛漫令嬢がアングラ劇団に所属。明らかに道を間違えてる。
主張の強い顔立ちが笑い、怒り、泣くさまはそれだけでコメディエンヌ。
彼女は毎回必ず総理にビンタされては、号泣しながら部屋を飛び出す。学習の無さがもはや魅力。


メイドの鶴田真由さん。ドン臭さ全開の田舎者。
特に、皿割ったときの「ぇあああぁぁぁ」という叫びがとってもドン臭い。
でも可愛い。なんなんだ。記者会見での酷いメイクすら可愛らしい。俺が男だからなのか。
このドラマの女性キャストはいちいち評価しづらい。何にせよ彼女は、今でこそ特に好まれるキャラクタなのかもしれない。


更に、女性陣には邸事務所秘書係主任の戸田恵子さん、賄いさんの松金よね子さんという素晴らしい女優さんらが。
絶望的で一方的な恋愛感情を秘めつつ、首席補佐官と共に手腕を振るう秘書係主任。
ドラマを影で支える暗躍組の一人。細かい表情が情景説明に一役買っている。
お芝居がお上手なだけに、馴染んで埋もれてしまっているのが個人的に残念です。ご立派!
そしてゴシップ好きの賄いおばさんは、誰よりも偉い。
総理にタメ語で威圧、命令できるのはこの国で彼女だけだと思われる。しかしその権力がドラマの展開に大きな影響を及ぼさないのが清清しい。さすがガールスカウト


王様のレストラン」「古畑任三郎」で手腕を振るった三谷さんの脚本は言わずもがな。
登場人物を肩書きでしかネーミングしてないとか、毎回必ず泣きながら部屋を飛び出す娘とか、「ドレスカデン国」とか、下らなくもしっかり笑える仕掛けや伏線が上手に効いているし、それぞれの人物にいちいち見所が振られているので、恋愛やアクションがメインでなくても眼が離せない。
音楽は服部隆之。「王様のレストラン」よりも地味だが重厚なオケ。最近かなり気にっております。
カットで顔アップにせず意味無くズームするとことか、「とんでもございません」みたいな間違った敬語とか個人的に気に入らないところはある。でもそれにまして、いいドラマでした。


そしてドラマのラスト、こんな最低最悪な内閣が支持率回復できるはずなく、当初の予想通り総辞職する。
原因は、証人喚問で総理がついた「政界史上最大・最後の大ウソ」。


フジテレビドラマ「総理と呼ばないで」。
洋題は「Farewell,Mr.Premier」。「さらば、総理大臣」。
このタイトルが、既に物語のラストを語っていた。「さよなら、小津先生」がコレと一緒だなそういえば。


総理と呼ばないで(1) [VHS]

総理と呼ばないで(1) [VHS]


追記:
そういえばこのエントリ、実際の政治に絡めて書く予定だったのに忘れてた。
このドラマ、外側から見たらまずありえない内閣だけど、実際の内閣もこんな内情があると言う風に見れば許…やっぱりダメだな。
あくまで平和な国の平和なコメディ。でも面白いので観るべし!!