あと

リアルタイムで見た旧劇場版はかなり好きで、観客への歪なメッセージや、それ以上に歪な自己分析と、その行き止まりからのぎこちない浮上に、トラウマというよりは強い嫌悪感とともに気に入ってます。
そこへ持ってきて「やり直して決着をつける」ための新劇場版。
旧劇場版と同等のテーマを、くどいほど丁寧な表現で、しかもメインではないエッセンスとして与えるだけでなく、更に明快な「希望」と「救い」を、旧劇場版以上のぶっ飛んだ演出で観客にぶつけてくる。
これまで作品全体を覆っていた負の感情を豪快に覆すストーリーに、嫌悪感の再燃と浄化がおこり、自分自身の成長や変化をひしひし実感しています。明後日もっかい見る。

見たことのないバンドが、そこにはいた

MOVIE12/UNICORN TOUR 2009 蘇える勤労 [DVD]

MOVIE12/UNICORN TOUR 2009 蘇える勤労 [DVD]

ありえないことが起こっている。
16年ぶり、華々しくも、不思議な達観と強靭さを伴った再始動から、満を持してのライブDVD。
コミックバンドともとられがちなナンセンスと、サウンドへの確かな指向性を備えたあのライブが帰ってくると思っていた。いや、確かにそれは帰ってきていた。


ただし、そこにいたのはあの頃のUNICORNではない。


もはやお馴染みの大きな垂れ幕・振り落としによるオープニング。
かつてはド派手なキラーチューンか、無闇に暗い楽曲か、いずれにせよオーディエンスを強引に巻き込む形でスタートしていた。
しかし、聞こえてきたのは、静謐で、温かいオルガン。「ひまわり」。
苦悩と喪失の先にある救いと優しさに、泣きそうになる。あろうことかユニコーンのライブ、しかも初っ端で。
続けて心地よくもグルーブ感溢れる「スカイハイ」。
ああこれは「シャンブル」のユニコーンだったと思ったところで初期の名曲「おかしな2人」だと!!?
完全にペースを崩される。3曲目にしてフラフラの状態で、しかし最高にノッてしまっている。


だがタチの悪いことに、このバンドの醍醐味はここからだった。


ベースがベース持ってない。指揮とかしてる。
ギターがマラカスとキーボードをやってる。
メインボーカルがドラムを叩いて効果音出してる。ドラムはドラム叩かずに歌う。しまいには誰も楽器に触らず歌ってる。無駄に上手なラップまでして。なのにメチャメチャ盛り上がってってコラ!なんじゃぁこりゃあ!!!
マルチプレイヤーが5人いるバンド」という往年の魅力に更なる磨きがかかっていて、その目まぐるしさはユニコーン史上最大。


それでいて、各々メインのポジションには相変わらず揺ぎ無い安定感。
「クリックお断り」の川西さんのドラムは、変幻自在だが猛烈で確実なリズムを刻み(50歳手前て!)、EBIさんのベースと手島さんのギターには鋭さと表現力が、更に参謀としての阿部さんには理知的なサウンドメイクと丁寧なキーボードプレイが備わり、そして、ボーカリスト/ギタリストとして成熟のラインを悠に超えた奥田さん。


彼ら(+α)により後半で繰り広げられるのは、かつての名曲と新曲がこれでもかと繰り出される至福の時間。
歌詞の織り成す儚さや、迸るメッセージが、大きな音とかっこいい演奏と、徹底した下らなさでもって、不思議な高揚感を醸し出す。


そして最後の挨拶に「HELLO」。
力強い。熱い。悲しい。切ない。気持ちいい!
ユニコーンのライブでいい歳こいた男が何度も泣くことになろうとは。


ひととして、音楽家としての重みや凄味を持った5人が同じ舞台に立っていて、見たことのないバンドになっている。
それはかつて憧れ、擦り切れるほどCDを聞いたユニコーンに非常に似ているが、明らかに違う。他のバンドとは当然似ても似つかない。
そうか、ありえないことなど無いのがこのバンドだったことを思い出す。


復活なのか、新生なのか、しかし少なくともそれらの気負いから産まれたものではない、5人によるUNICORNの「音楽」。必見です。


あと、最後の30分は本当に下らな過ぎる。
そんなところが特に大好きです。最後の最後でまた泣きました。

Clover Field

レンタルDVDで拝見。
ネタバレです。そんな時期でもないか。


「怪獣映画を被害者視点で描く」というコンセプトは、ガメラ3などでも試みられていたけど、ここまで徹底してくれたのはこの作品だけで、望んでいたものが見られて嬉しい。


全編ハンディカムで雑に撮影された、ドキュメントとしても怪しい「ただの記録」というハリウッド・ムービー。
前半は退屈なパーティーの映像がたらたら続く。確かに素人の撮った映像ってこんなだな、と思ってると、地震と爆発が起こった。っぽい。
もうなんというか、「偶々撮影できました」くらいの不正確さ。「ハリウッドがこれでいいのか」と思うくらいの雑さ。


つまり、何が起こっているのか概ね判らない。


ドラマチックなカメラワークや音楽は一切無いまま、淡々と建物が壊れる。ひとが沢山死ぬ。
周りの人物を先導し、勇敢に進む男も序盤であっけなく死ぬ。
残ったのは、ただただ平凡な人物のみ。どうやら事態の元凶らしいデカい奴と軍が戦っている。っぽい。


そして、平凡な群集のひとりである主人公の男は、先日偶々寝ただけの女を救おうとする。
ビタイチ崇高な純愛ではない。行きずりに執着する見苦しささえ覚える。
それを撮影するもう一人の男と、平凡な皮肉屋と、平凡な女。
戦闘の最前線へと向かう愚かな男と、それに異を唱えず、流されるように付いて行くだけの愚かな三人。


その後も、何だかわからない感じで色々あるのだが、彼らのその後と、事件の全貌は最後まで判らない。
なぜなら、撮影者が素人だから。
「大きな音がしたので振り返ったら、爆発していた」という後手後手の映像がもどかしい。
特に怪獣の俯瞰はほぼ無し。よって怪獣の全貌もラストぎりぎりまで分からない。「ハリウッドがこれでいいのか」と思うくらいのわからなさ。


しかしコレが大変よい。
どうせ襲われる側には敵の正体は分からない。
災害の由来も正体も考える前にパツンと死ぬ人物が、怪獣映画には大勢いるはずで、そこに焦点を絞り切ったこの映画は、それだけで結構面白い。


このハンディカムによる映像は、冒頭でカラーバーに載せた「ニューヨークの某所と呼ばれていた地点で軍が拾った」というクレジットから始まる。この描写から、まず最初に撮影者の生存について疑わざるを得なくなる。
そして、この映像が、事件以前に撮影された主人公+行きずり女とのデート映像に上書き録画されているという描写。
ショッキングで絶望的な映像の合間合間に、録画ミスで残った穏やかなイチャイチャシーンが1秒に満たない長さで入ってきて、いたたまれない気持ちになる。
他にも、絶望的なシーンなのにカメラは地面に放りだされ声だけが聞こえるところや、賢明とは言いがたい理屈で行動するところなど、その生々しい情景にはリアリティがあり、僅かな希望が当然のようにポッキリ折れる無慈悲さに身が凍った。


ただ、この映画の欠点というか不自然さもそこから生まれていて、死ぬまでカメラを放さなかった撮影者のメディア根性や、主要人物の無闇に強靭な生命力は、どう見ても異常というか、「御都合主義」というレッテルがしっくりきてしまう。
理不尽に回収されない伏線はむしろ良い。もっと重要なシーンは撮影されず、敵の正体をうやむやにしてもよかったとすら思う。これは「大衆文化」であるハリウッドの限界で、やむを得ないとは思うけど。


まあなんだかんだ言って、実際楽しめました。
他メディア(おもにネット)の参照を余儀なくされる過剰な伏線も、音楽は一切使用しない(代わりにSEでもってその代用を徹底する)という粋なスタンスも素敵です。
ブレア・ウィッチ・プロジェクト」をもう少し贅沢にしたようなこの映画。
リアルタイムで情報を漁り倒しながら劇場に足を運んだひとは、さぞかし幸せだったことでしょう。
が、映像の分野に慣れ親しんだひとならば、今見ても十分楽しめるものだと思います。

衝撃の再始動が波紋を呼ぶも、「どうでもいい」(本人たちが)

シャンブル【初回生産限定盤】

シャンブル【初回生産限定盤】

16年ぶり、まさかの再始動。あの「伝説のバンド」が帰ってくるというニュース。
ところが出てきたアルバムはなんとも気楽なものだった。


初っ端から、優しさ全開の「ひまわり」。
続いて奥田民生の趣味をそのまま取り出したかのような「スカイハイ」。
「ザギンデビュー」「水の戯れ」など、聴き心地の良い楽曲が続き、ハイテンポの「BLACKTIGER」までもが、あってしかるべき「刺」を刈り取られている。
これまでの歌詞から溢れていた毒が無い。人を食ったかのような展開も無い。
「もう少し力んでもいいんじゃないのか」
と思うくらい自然体の楽曲たち。自分たちがユニコーンである自覚すら感じられないつくり。


しかし、その心地よさと言ったら!


聴けば聴くほど染み込んでくるメロディ。ライブでのテイクに期待してしまうノリ。
「なんでこの曲調でこの歌詞なんだ」という、気付きにくくてややこしいナンセンス。
病み付きになり聴き続けるうちに、少なくともはっきりしてくる真実がある。


間違いなく、連中は楽しんでやがる。


再始動という奇跡への期待を、こともなげに突っぱねるテンションと完成度。
当時の売りであった「毒と哀愁を含んだ歌詞」すら無いのには、さすがにびびった。
だが、実はこれこそが「音楽を楽しむ」「楽曲のみに精を出す」「他は知らん」というユニコーンの基本姿勢で、その肝がむき出しになった今作は、ユニコーンに付属していた「伝説」という称号にまるで価値を感じていない、メンバーのふてぶてしさ(ここも相変わらず)の証左なのでしょう。
今考えると、確かに彼らならこう出るに違いないと思える。


もうひとつ、最後の曲「HELLO」で泣いた。
まさかユニコーンの曲で泣くとは思わなかった。


「伝説のバンド」などではない。このバンドは「変」だ。
相変わらず予想も期待も裏切る。むしろ歳をとって更に食えなくなってるので注意されたし。
ユニコーンで音楽による無為と感動の扉を開かされた身として、大変嬉しいアルバムでした。