Clover Field

レンタルDVDで拝見。
ネタバレです。そんな時期でもないか。


「怪獣映画を被害者視点で描く」というコンセプトは、ガメラ3などでも試みられていたけど、ここまで徹底してくれたのはこの作品だけで、望んでいたものが見られて嬉しい。


全編ハンディカムで雑に撮影された、ドキュメントとしても怪しい「ただの記録」というハリウッド・ムービー。
前半は退屈なパーティーの映像がたらたら続く。確かに素人の撮った映像ってこんなだな、と思ってると、地震と爆発が起こった。っぽい。
もうなんというか、「偶々撮影できました」くらいの不正確さ。「ハリウッドがこれでいいのか」と思うくらいの雑さ。


つまり、何が起こっているのか概ね判らない。


ドラマチックなカメラワークや音楽は一切無いまま、淡々と建物が壊れる。ひとが沢山死ぬ。
周りの人物を先導し、勇敢に進む男も序盤であっけなく死ぬ。
残ったのは、ただただ平凡な人物のみ。どうやら事態の元凶らしいデカい奴と軍が戦っている。っぽい。


そして、平凡な群集のひとりである主人公の男は、先日偶々寝ただけの女を救おうとする。
ビタイチ崇高な純愛ではない。行きずりに執着する見苦しささえ覚える。
それを撮影するもう一人の男と、平凡な皮肉屋と、平凡な女。
戦闘の最前線へと向かう愚かな男と、それに異を唱えず、流されるように付いて行くだけの愚かな三人。


その後も、何だかわからない感じで色々あるのだが、彼らのその後と、事件の全貌は最後まで判らない。
なぜなら、撮影者が素人だから。
「大きな音がしたので振り返ったら、爆発していた」という後手後手の映像がもどかしい。
特に怪獣の俯瞰はほぼ無し。よって怪獣の全貌もラストぎりぎりまで分からない。「ハリウッドがこれでいいのか」と思うくらいのわからなさ。


しかしコレが大変よい。
どうせ襲われる側には敵の正体は分からない。
災害の由来も正体も考える前にパツンと死ぬ人物が、怪獣映画には大勢いるはずで、そこに焦点を絞り切ったこの映画は、それだけで結構面白い。


このハンディカムによる映像は、冒頭でカラーバーに載せた「ニューヨークの某所と呼ばれていた地点で軍が拾った」というクレジットから始まる。この描写から、まず最初に撮影者の生存について疑わざるを得なくなる。
そして、この映像が、事件以前に撮影された主人公+行きずり女とのデート映像に上書き録画されているという描写。
ショッキングで絶望的な映像の合間合間に、録画ミスで残った穏やかなイチャイチャシーンが1秒に満たない長さで入ってきて、いたたまれない気持ちになる。
他にも、絶望的なシーンなのにカメラは地面に放りだされ声だけが聞こえるところや、賢明とは言いがたい理屈で行動するところなど、その生々しい情景にはリアリティがあり、僅かな希望が当然のようにポッキリ折れる無慈悲さに身が凍った。


ただ、この映画の欠点というか不自然さもそこから生まれていて、死ぬまでカメラを放さなかった撮影者のメディア根性や、主要人物の無闇に強靭な生命力は、どう見ても異常というか、「御都合主義」というレッテルがしっくりきてしまう。
理不尽に回収されない伏線はむしろ良い。もっと重要なシーンは撮影されず、敵の正体をうやむやにしてもよかったとすら思う。これは「大衆文化」であるハリウッドの限界で、やむを得ないとは思うけど。


まあなんだかんだ言って、実際楽しめました。
他メディア(おもにネット)の参照を余儀なくされる過剰な伏線も、音楽は一切使用しない(代わりにSEでもってその代用を徹底する)という粋なスタンスも素敵です。
ブレア・ウィッチ・プロジェクト」をもう少し贅沢にしたようなこの映画。
リアルタイムで情報を漁り倒しながら劇場に足を運んだひとは、さぞかし幸せだったことでしょう。
が、映像の分野に慣れ親しんだひとならば、今見ても十分楽しめるものだと思います。