見たことのないバンドが、そこにはいた

MOVIE12/UNICORN TOUR 2009 蘇える勤労 [DVD]

MOVIE12/UNICORN TOUR 2009 蘇える勤労 [DVD]

ありえないことが起こっている。
16年ぶり、華々しくも、不思議な達観と強靭さを伴った再始動から、満を持してのライブDVD。
コミックバンドともとられがちなナンセンスと、サウンドへの確かな指向性を備えたあのライブが帰ってくると思っていた。いや、確かにそれは帰ってきていた。


ただし、そこにいたのはあの頃のUNICORNではない。


もはやお馴染みの大きな垂れ幕・振り落としによるオープニング。
かつてはド派手なキラーチューンか、無闇に暗い楽曲か、いずれにせよオーディエンスを強引に巻き込む形でスタートしていた。
しかし、聞こえてきたのは、静謐で、温かいオルガン。「ひまわり」。
苦悩と喪失の先にある救いと優しさに、泣きそうになる。あろうことかユニコーンのライブ、しかも初っ端で。
続けて心地よくもグルーブ感溢れる「スカイハイ」。
ああこれは「シャンブル」のユニコーンだったと思ったところで初期の名曲「おかしな2人」だと!!?
完全にペースを崩される。3曲目にしてフラフラの状態で、しかし最高にノッてしまっている。


だがタチの悪いことに、このバンドの醍醐味はここからだった。


ベースがベース持ってない。指揮とかしてる。
ギターがマラカスとキーボードをやってる。
メインボーカルがドラムを叩いて効果音出してる。ドラムはドラム叩かずに歌う。しまいには誰も楽器に触らず歌ってる。無駄に上手なラップまでして。なのにメチャメチャ盛り上がってってコラ!なんじゃぁこりゃあ!!!
マルチプレイヤーが5人いるバンド」という往年の魅力に更なる磨きがかかっていて、その目まぐるしさはユニコーン史上最大。


それでいて、各々メインのポジションには相変わらず揺ぎ無い安定感。
「クリックお断り」の川西さんのドラムは、変幻自在だが猛烈で確実なリズムを刻み(50歳手前て!)、EBIさんのベースと手島さんのギターには鋭さと表現力が、更に参謀としての阿部さんには理知的なサウンドメイクと丁寧なキーボードプレイが備わり、そして、ボーカリスト/ギタリストとして成熟のラインを悠に超えた奥田さん。


彼ら(+α)により後半で繰り広げられるのは、かつての名曲と新曲がこれでもかと繰り出される至福の時間。
歌詞の織り成す儚さや、迸るメッセージが、大きな音とかっこいい演奏と、徹底した下らなさでもって、不思議な高揚感を醸し出す。


そして最後の挨拶に「HELLO」。
力強い。熱い。悲しい。切ない。気持ちいい!
ユニコーンのライブでいい歳こいた男が何度も泣くことになろうとは。


ひととして、音楽家としての重みや凄味を持った5人が同じ舞台に立っていて、見たことのないバンドになっている。
それはかつて憧れ、擦り切れるほどCDを聞いたユニコーンに非常に似ているが、明らかに違う。他のバンドとは当然似ても似つかない。
そうか、ありえないことなど無いのがこのバンドだったことを思い出す。


復活なのか、新生なのか、しかし少なくともそれらの気負いから産まれたものではない、5人によるUNICORNの「音楽」。必見です。


あと、最後の30分は本当に下らな過ぎる。
そんなところが特に大好きです。最後の最後でまた泣きました。